パリより愛をこめて

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<あらすじ>
 パリにあるアメリカ大使館に勤めるジェームズ・リーズ。 彼のもう一つの顔はCIA捜査官の見習いである。大使館員として働く傍ら,一人前のCIA捜査官になるため,任務に勤しんでいた。 一日でも早く認められたいリースはもっと大きな任務を熱望していた。 そんなある日、アメリカからCIAの先輩で凄腕の諜報部員・ワックスがアメリカより送り込まれてきた。 ワックスは一筋縄ではいかない,はみ出しモノ的な人物だが結果を必ず出す男だった。 リースの任務はワックスの運転手を務めることで、この任務次第でプロとして約束されるというものである。 やっと、CIAを肌で感じられる道に足を踏み入れたリースだったが、想像以上にハードで厳しい現実が彼を待ち受けていた。 ワックスが来た目的は、麻薬捜査ではなく,国際サミットを狙うテロリストを追跡し,彼らを阻止するものだった。 瞬く間に時計の針は進み,真実へ迫っていく…

<感想>
 この作品の特徴は“理屈ぬきのスピーディさ”。 約90分の間にユーモアもふくませつつ,無駄がほとんどなく,必要な部分だけ取り入れたバディ・ムービー。 これだけの短い時間に深みがあってこれだけ充実したストーリーをつめるのは,やはり リュック・ベッソンの腕の凄さだろうと私は思う。 彼の作品に共通するのが アメリカ的なのだが、でもよくあるハリウッド映画とはどこか違う要素がある,中世的な映画だということ。 “ヨーロッパのスピルバーグ”という声にも頷ける。
 さて。 この映画でまず気になったのが、登場人物の設定である。 エリートと変わり者のタッグという正反対な二人が組むというも,二つの顔を持つ主人公もそう珍しくはない。 だが、その裏表のある主人公の裏の顔がCIAの“見習い”というところだ。 何故、プロではなく,アマチュアなのか。 それはリースの役割が観客の目線というのが一つあげられるだろう。 それに始めからボンドのように何事も器用にこなすより、見習いであるがゆえに多少の不器用さがなんとなく感情移入しやすい。 リースがワックスと組まされたのも彼に与えられた最終試練である,しかしながらゴールまであと一歩まで迫っているものの、そこまでの距離は長く険しい関門なのである。 今までのリハーサルにはなかった命がけの危険なミッションが待ち受けており,リースにしてみれば,何がなんだかわからないうちに時間は進んでいく。 そしてこの設定の最大の理由は、これが リースがCIAとして(ワックスに)鍛え上げられていく物語だからだ。
 映画が必要なことしか語らないように、ワックスも必要なことしか(リースに)語らない。 ワックスがリース自身の成長のためにその意思を持ってパリへ来たのかはわからないが その役割を果たしている。 きっとそういう指示がワックスに出されていたとしても、彼は理屈を並べた長い説明をすることも聞くことも,面倒くさがるタイプだというのが なんとなく伝わってくる。 「黙って自分についてこい」という感じ。 また。「自分の言うことだけ聞いて、実行すればいい」というふうとも取れるけれど、決してそんな押し付けがましい印象は与えない。リースが追いつく間もなく,ワックスはどんどん行動に出て行くため,文句など言っている暇はない。 そしてワックスの撃つ弾は荒いようでいつも正確だから認めざるをえなく,ただ彼についていく。 “頭で考えるより体で覚えろ”というのが、ワックス流。
 作品を物語るのに、説明が必要な時もあるけれど ない方がかえって 面白い。 とりわけアクションがメインだったりする場合はそう。 説明がなくてもちゃんと内容はつかめていくし,そこが省かれることによって話が次から次へとテンポよく進み,そして様々展開を盛り込める利点がある。ワックスがリースに与える指示やアドバイスはその場では真意を理解するのは容易ではないが、意外な結果として明らかにされる。 そんな驚きの数々がこの作品の見所の一つ。 よって前述したリースが観客目線であることを決定付けるのが “リースが驚くところで観る側も驚くというところ”(プログラム参照)なのだ。
 その驚きと言えば、リースとワックスの初対面のシーン。 これが役者としても初顔合わせであり、リースの驚きのリアクションはマイヤーズ自身のものでもあると言う。 日本のあるコマーシャルでもリアルな反応をそのままカメラに映したという手法があるが、演技ではない素顔が見れるというのはとても新鮮で この二人の主人公のファーストカットをもう一度見たくなる。 演技では出せないリアルな反応が物語にもリアルさを与えるのだ。 あの場面がトラボルタとマイヤーズの初対面だということは、あの場面はワンテイクということになるだろう。 そう思うとさすがプロだなぁと思う。 素人の感覚としては、一見ハードボイルド過ぎるチョイ悪オヤジ…しかもヤバそうな空気さえ漂う格好をしたその姿を見たらセリフがふっとんでしまったり、リアルなリアクションによる言葉が出てしまいそうな気がする。 リスクを恐れないという役者の生き方というのは凄い。
 アクション場面について。 メインで動くキャラクター皆がハードである。 最近では、アクションを自分でこなすことが当たり前といった傾向がある。 やはり、本人が演じていると思って見るのとそうでないのとでは全く見方が異なってくるし、何より面白さが違う。 ワックスは戦闘能力にも優れ、圧倒されるくらいカッコイいのだが 私には何故だか“ファイティング・クマさん”というふうに見えた。 見た目と実力とのギャップが激しいワックス。 無鉄砲で出たとこ勝負、そして体当たり受けたのだが ユーモアのセンスも抜群で、高速に動く計画と戦法で相手を容赦なく撃つなんて…。 トラボルタ自身が過去・現在に負ったリスクなどこの迫力一つで払拭される。 
 ワックスは危険すぎる男。だが、結果は残すというCIAのお墨付き。 実践で覚える方が体にしみこむから,かえって説明を聞くよりも覚えが早い。 CIAの仕事をありのまま知るのには,最も適している上にかなりの刺激になる、さらに学ぶことが多い…などなどワックスがリースのもとへ送り込まれるのが、ストーリーを見ていくとよくわかる。
 リースは銃で人を撃つことが出来ない。 車から身を乗り出してバズーカ?を撃つ程,撃つことが大好きな?ワックスに比べると目立ったアクションはないのだが 作品上,最初で最後のガンアクション場面はかなり印象深く,カッコいい。 また、爆弾で吹っ飛ばされるところも絵として凄く綺麗。 綺麗と言えば、不覚にも自らの手で握った銃によって血しぶきをあびる場面。 その直後に恐怖の色を隠せないリースだが、彼の中の何かが変わったところでもある。 その恐怖は同じ立場で考えると,とてもリアルに思う。 意表をつくところがイイのがワックスだとしたら、リアルな感覚で共感を観る人に与えるのがリースだ。
 アクションとは別に個人的に注目したいのが、言語である。 わからないようで実はちょっとフランス語がわかるワックス…というのはよくあるパターン。 リースは数カ国語を話すことの出来るバイリンガルだ。 その一つになんとアジアの言葉もあったのは意外だった。 ストーリー上必要とされるのはわかってても。東洋人が英語を話すとか、英語圏の人がヨーロッパ言語を話すのは観るけれど 欧米人が中国の言葉を話すというのは(私は)初めて見たので、それがとても新鮮だった。 顔は日本人の要素がまるでないのに、日本語しか話せない少年がテレビで紹介されたのを見たときと同じような驚きだ。
 ワックスは物語前半で、リースに降りかかる危険とその正体を見抜いていたから凄い。 だからこそ、クライマックスに入る頃,明らかにされた真実の場面が一番驚いた、その驚きこそが映画の面白さを代表する要素の一つである。 
 映画のタイトルの意味は何か。 (個人的には)はじめ受ける印象は、そのまま冒頭のシーンに流れる雰囲気そのもの。 しかし、その本当の意味というのは リースが愛する人にかけた最後の一言につきる。 彼の愛は何があろうと変わることなく、愛のために下した決断は思いもよらぬものであったが それはやはり愛のこめられたものだった。 それを経た結末こそが,他にないアクション,バディムービーの常識やお決まりを破った独特な終わりかただと思う。 一部わかりずらいところもあったけれど、シンプルだからこそいいのかもしれない。
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by jd69sparrow | 2010-06-06 22:05 | 映画タイトル は行