大奥(男女逆転)

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<あらすじ>
 時は、江戸時代。 第8代将軍・徳川吉宗の時代である。 日本全国の人口は、男だけがかかる顔が赤く腫れ,大きな吹き出物が全身に出た上で,死にいたる不治の病が流行っていたため,女の四分の一にまで男の数が減少していた。 男の仕事は女が任されるようになり、武士として生きる男も稀になっていた。 そんな時代を生きていたのが,貧しい旗本の家に生まれた水野裕之進だった。 彼は家族のため、俗世での生活から大奥へ入る決心をする。  大奥には、将軍にお目見得の叶う位の一つ下の場所だった。 早速、いじめという洗礼を受ける裕之進だったが、ただでは引き下がらず,切り抜ける。 大奥に使える者たちが集う武道の場,つまり剣道を目にした裕之進は、大奥最強の鶴岡を負かし、総取締役・藤波の目にとまり,一気に昇進を果たす。 しかし、その先も欲望や策略にまみれた闇が広がっていた…

<感想>
 男女逆転というのは、なんとも面白く,新鮮味のある発想だろう。 全てが男女の立場が逆だと世界が180度変わって見えてくる。 大工など力仕事も女がこなし,一家の大黒柱も奥さんだという今まで見たことのない世界が広がっていることに驚く。 男が嫁の貰い手を懸命に捜すというのはなんとも変わった光景である。 建物の骨組みのてっぺんで女二人が力を合わせて仕事をしているさまが未だに目に焼きついている。
 作品の解説などで示されているように、やはり時代劇と言っても現代につながるところがある。 それも一つではない。 男の人口の方が四分の一も少ない『大奥』の世界。 そこでまず語られるのは、“力の上では、男が上だが、(体の)強さで言えば女が上”ということ。 この時代はどうだったかわからないけれど、女性の方が長寿であり,体も健康。 女性が連れ添いがいなく,一人になった時は強いと思う。 全てがそうだとは限らないけれど、家事を普段こなさない旦那は、一人になった時に弱いと言う説があるのだ。 メンタル麺で、女性の方が強いと言えるだろう。 あくまで推測だが、世界にも視野を広げた上で考えると 女性の人口は男性より上回るのではないだろうか。
 水野の両親を見ての通り、その上下関係…というか、力関係はあながち現代でも同じではないかと思うこともある。 子を案じる気持ちは母親に勝るものはなく,家計を管理するのも母である。 夫は尻に敷かれ,奥さんが子供に対して物申す。 夫はそんな奥さんの後ろで静かに見守り,その時がくると 的を射た大切な言葉を子供に話す。 裕之進が大奥へ行く決心を打ち明ける場面がその全てを物語っていると思う。
 あらゆる男の仕事を女が任されている『大奥』の世界。 この世界までとは言わないにしても、女性が広く社会進出している光景はなんとも素晴らしいものがあり,理想的であると思う。 実際の歴史を考えるととても考え難い光景だ。 現代ではようやく,徐々に女性の社会進出の幅が広くなってきているところだが、いつの日かこの“男女逆転”の『大奥』の世界のように、今まで踏みこまれることのなかったところまで女性が進出する…つまり、力仕事なども女性に任される時代が来るのではないかと私は感じている。
 質素倹約を好んだ,将軍・徳川吉宗。 その女将軍の誕生に,水野の大奥への就職。 とても運命的に考えられる。 吉宗が質素な衣服を好んだように,水野もまた他の同じ地位のお目見得以上のものたちの豪華絢爛な様とは逆に派手好きではなかった。 黒い袴というのは、本来ならばこの時代の男であれば、普通のはずだけれど、ここでは特別に見える。 色とりどりのパステルカラーの中の漆黒の色はとても映える。 しかも、水野ただ一人が、江戸の男らしく,頭のてっぺんの髪をそり落とし、見事な髷をゆっている。 全てが実際の歴史とは逆の“男女逆転『大奥』”の世界で水野だけが歴史の通りの姿なのである。
 吉宗で印象的な場面はいくつかある。 鈴の廊下での勇ましさ、その男勝りできりっとした感じは全体を通してあるものだが、同じ女性ながら、とてもかっこよく思う。 水野に対しての計らいをするとき、どう見ても男女逆転していると思った。 吉宗は男、裕之進は女と。 実際の多くでは、この上下関係は普通だけど、この映画においては不思議な光景だ。
 そして特に印象的な場面。 それは歴史上にもあることだが,大奥が財政圧迫している中で,大奥で仕える男たちから特に美男な50人を集め,一度にリストラした後半の場面。 その一人であった松島は、驚くも不満をあらわにすることもなく,むしろ納得をしているところが印象が強く残っている。 
 悪く言えば、ケチと言える吉宗だが,それを裏返せばこれほど国を思い,民を思った将軍はそうそういないんではないかというくらいの人柄だ。 徳川の将軍たちを見ると、なんとなく今の歴代総理大臣に通じるものがある。 良き国のトップもいればそうではい人もいて、決して悪いトップではないが,不慮にもその座を降りる人もいた。 しかし、思うのである。 この第8代将軍・徳川吉宗のように、今の官僚を思わせる大奥の大胆な経費削減をはかり,それもそのもの達を考えての配慮をする。 つまり、思いやりのあるトップはとても理想的だと思う。 最近の総理大臣など見ると,吉宗に見習って欲しいと凄く思う。 経費をやたらかけることもなく、すぐ投げ出すこともない。 進んで国を背負う立場に名乗りをあげ、自身も質素に努めるというのは凄い。 莫大な富を持つと、中々このように質素で…などということは難しいことで滅多にあることではないのではないか。 
 女将軍という設定のこの作品の吉宗。 何気に水野の中心にお信と三角関係というのがちょっと面白いと思った。 現代で一般的に言うそれとは全く異なるが。 運命のいたずらか、吉宗の本名は“信(のぶ)”という。 そう、水野の幼馴染にして,意中の相手である,お信と同じ名前。 これが最期の晩と覚悟を決めた,水野との場面はとても印象的で,水野の姿にぐっとくるものがある。  密かに片思いをしていた吉宗。 初めての総ぶれの場面の直後の“私も女と言うことだ”と恥じることなく,自然に気持ちをもらす場面は女性として共感のようなものを覚える。 その恋破れども、実際の大奥をイメージするようなドロッと感は一切ない。 それがまた好印象が持てる。 
 そして。 記憶の中では、ドラマシリーズや過去の映画版を含めて考えるとこれ以上,潔く,そして心地よい終わり方はないのでは?と思う。 とても平和的で穏やか…そして爽やかですっきりとした締めくくりは,とても気持ちがいい。
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by jd69sparrow | 2010-10-05 23:54 | 映画タイトル あ行