ゴースト ~もう一度だきしめたい~

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2010年 12月1日(水)、『映画の日』

<あらすじ>
 七海がジュノに出会ったのは、パーティのあった,とある夜だった。 酒によっていた七海は事の成り行きを把握できぬまま、朝をむかえ,本当の意味でのジュノとの初対面となる。 誤解をしてしまった彼女は,改めてジュノの家を訪れる。 そして一つの事実を知った。 七海の話に全く口を挟まない彼は、韓国人だった。 キム・ジュノ。 陶芸を学びに来日しており、まだ時間も経っていなかったのだ。 一方、七海は自分の会社を持つ,実業家。 まるで別世界で生きる、二人の運命の出会い。 しかし、七海が陶芸好きということが 一気に二人の距離を縮めたのである。 
 二人の間に愛が生まれるのも,そう時間はかからなかった。 結婚と言う絆で結ばれた二人。 彼らの幸せは長くは続かなかった。 ある日、記念日を祝おうと待ち合わせた,七海とジュノだったが 七海はその道中で何者かにバックをひったくられて,勢いあまって その場に倒れこむ。 立ち上がる彼女が振り返った先には血だらけの自分に必死に呼びかけるジュノの姿だった。 七海は命を失い、゛ゴースト”となったのだった。
 (生前、中々)言えなかったことを どうしても伝えたい。 その願いを胸に霊媒師・運天を通じて,ジュノに呼びかけるのだった…

<感想>
 『ダーリンは外国人』が記憶に新しい、国際カップルの話。 しかし、アジア人どうしの組み合わせというのは、個人的に初めてだ。 欧米人が相手の場合とは どこか違う化学反応がとても面白いと思う。
 まず、ポイントとなるのは,この映画がリメイクだということだ。 一言で言うならば,オリジナルに決して劣らぬ作品。 そして、これ以上ないくらいのベスト・キャスティングと言えるだろう。 それは挿入歌やエンディングを歌う歌手に然りだ。 
 もう一つ、ここに付け加えたいのは 男女逆転であること。 オリジナルでゴーストになるのが男性に対して、それが今回は逆となっている。 よく愛する男性を失った女性の女性の悲しみを描く話というのは 見かけるけれど、その逆って案外ないような気がする。 ジュノというキャラクターはとても新鮮な立場と言えるだろう。 私はまず、このキム・ジュノという人物に注目してみた。
 美男美女の美男にあたるジュノ。 その生活ぶりは とても物静かだが,とても温かな包容力と癒しオーラがあり、その上子供たちからも好かれるほど、とても人間味があふれている。 派手な生活よりも゛陽だまり”でただ空を眺めるような感じ。 陶芸の作品を作る毎日の傍らで、彼は病院に通い,そこで入院する子供たちのために、手作りの模型や動物の可愛い瀬戸物で子供たちを楽しませると言う,非の打ち所がないほどの,とても理想的な異性。 七海がお酒に酔った翌日に、ジュノの家で目を覚まして、ジュノの頬を叩く後の優しい笑顔で世の女性は、心を,ハートをわしづかみにされる思いだったのではなかろうかってくらい、くすぐられる嬉しさがこみあげてくる。 同じアジア系の非日本語圏の人ならではなのか,そうではないのか…とにかく、ちょっと たどたどしい感のある片言の日本語が,観ている側に語りかけるかのように響いてくる。  
 そしてジュノといえば、その情熱の深さが魅力である。 男泣きがこんなに美しいと思ったのは、生まれて初めてだ。 恥じることもなく、ストレートな感じがいい。 だからこそと言うべきなのか。 愛する人のために、思いを表に出すのに熱がこもってるのは。  物静かなジュノが突然情熱的になる。 まず、一つは「愛してる」の言葉を中々言えない七海に疑問をぶつける場面。 これほどの情熱を持って,大切な人を思う人は 一体,世の中にどれだけいるのだろうか。 ためらう七海にビシっと言う,「僕は七海の会社と結婚するんじゃない!」って言葉…名言といってもいいだろう。 物静か且つ低い声で七海を問いただす,小さな苛立ちにさえも相手への思いが詰まっている。 
 刑事に「出て行ってくれ!」と叫ぶ場面は とても印象深いものがある。 そしてその一喝で,二人の刑事の意地悪っぽさが引き立つ。
 七海とジュノのような出会いって現実にもあるのかな? お酒に酔っていたら、親切な人が車に乗せて,「送りますよ」って家まで送ろうとしてくれたり、その人の自宅に泊めてくれたりってこと。 光でイルミネーションのごとく輝いている噴水の前で出会った二人。 このようなシチュエーションって結構見かけるけど、やっぱり美男美女がここで出会うのが凄い。 どこの噴水なのかきっと、みんなが気になるのではないだろうか。 多くの人が憧れるであろう場面だ。 
 しかし…その上、何事もなく朝が来るなんてことあるのか…。 だから、七海のシラフに戻ってから見せた反応は当然と言えば当然なのかもしれない。 七海はその後、誤解したことを誤りにジュノの自宅を訪れるという, 律儀な一面を見せている。 勝手なイメージだが、大手企業の社長さんがそのようなことをするというイメージがないだけに驚いた。 やはり主人公も女性なのだなって失礼ながら、思った。
 そこでのくだりが忘れられない。 一気に七海がしゃべるのに対して、ジュノはただ耳を傾けるだけで何も言わない。 本当のところは、日本に来て一年だから,日本語がただ聞き取れなかっただけっていう話なのだが、私にはジュノが聞き上手に見えたし、黙って聞いていることが、ジュノの優しさにも思えた。 
 叩かれても、ふって軽く,優しく笑うのがなんとも女性の心をくすぐるというものだ。 とこどどころで見せるこの笑顔に注目していただきたい。 この一瞬一瞬だけでもお腹いっぱいになりそうである。
 ジュノのセリフで忘れ難く,胸にぐっと来る言葉がいくつかある。 一つは「七海の幸せは、僕が守る」で、もう一つは「守ってあげられなくてごめんね」というセリフ。 あと…付け加えるなら、「僕は、七海の会社と結婚するんじゃない」という言葉だ。 この三つ目の言葉に関しては、女性が男性にかける言葉として聞きなれている気がするけれど、ぐっとくる。
 残り二つのセリフもとても心に響くし、物語の鍵を握ると言っても過言ではない。「七海の幸せは…」という言葉は 現実となるし、「守ってあげられなくて」って言葉も泣きそうな気分になりそうなくらいの感動フレーズだ。短い一言の中に感動ありけり。 どのタイミングで言うかは映画を見てのお楽しみ。
 ここで一度、本筋から離れる。 どうしても言いたいことが一つあるからだ。 それはこの映画のキャスティングの素晴らしさ。 役者だけでなく、歌手に関してもそう。 これ以上ないという程。 特にウーピーが演じた霊媒師を演じた樹木さんについては、製作側の言葉どおり「この人しかありえない」。 何度も断られた上での,出演の実現が素晴らしい。 何度も断ったけれど、いざ クランクインすると 役者魂を全開で取り組むってところが名優と言えよう。運天。 その登場場面の直前の場面はまるで、『千と千尋の神隠し』でも観ているよう。 よくこんな絵ってドラマとかでもあるなぁとも思った。
 もう一人注目したいのが、歌手。 こちらもこの人以外、ありえない。 最後の『アイシテル』という歌も、挿入歌も。 挿入歌に関してはタイミングがベタな気もしたけど,それが逆にイイのかなとも思った。 主題かもタイトルの「アイシテル」という言葉が映画の鍵ともなるわけだから、素敵だと思う。 タイトルがカタカナの部分がいい。 七海だけでなく、ジュノが主人公であり,彼の話でもあるのだと実感できるからだ。 オリジナル版でも御馴染みの二人が轆轤をまわす場面はとてもロマンテック。
 ハングルと日本語、二つの言葉が行きかう,この作品。主人公二人と未春の三人が使う。 しかし、話す人によって言語への印象が変わる。 未春のは、なんだか悪女…と言ったら大げさだけど,よい印象は受けない。けれど、やはりネイティブは違う。 ジュノのハングルはとても優しい。 ハングルの音の響きに初めて魅力を感じた。 アジアの二大・大国の共演はとても相性が良く,心地よいハーモニーと科学反応を示している。 
 美術的にも魅力的なところはたくさんある。 一番はジュノの家。 轆轤を作るスペースに庭、風通しもよさそうだし,住みやすそう。 しかもこれまでに,そこで暮らした人たちの温もりが残る,何気に歴史あるところがいい。 これと正反対と言えそうなのが、取立て屋のアジト。 いかにも立派な会社名をかかげたプレハブ倉庫のような空間。 それはビルの屋上にちょこんと存在するのが、こんなスペースに何故か憧れる。 
 緊張感のある場面。 それは二つ少なくともあげられる。 このようなロマンティック・ストーリーでつきものと言うべきなのか、意外と言うべき気なのか(意外という点で言うと、所々に盛り込まれた゛笑い”に是非注目していただきたい)。 一つは、「ゴーストの狂気」。 真実を知った七海には怒りしかなった。 犯人と真犯人をそれぞれ追い詰める場面は恐ろしい。 その一つが、信頼していた人の裏切りの場面。 正確には裏切りの後の場面だ。 別の映画にも似た場面はあるけれど、状況が状況なだけに緊張感が高い。 ここが一番ドキドキした。 
 日本人が中々、思っても口に出せない,「愛してる」の言葉。 同じアジア人でもストレートにいつも言ってくれるのが日本人には馴染みがないが、嬉しいだろうと思う。 それを口にすると幸せを失うかもしれないと恐れる七海の気持ちにも共感できるし、言い続けるジュノの情熱にも心が温かくなる。 魔法の言葉だと思う。 「いつ何があっても、この言葉さえ言っていれば…」っていうふうに、この映画の本編かパンフレットの解説で見かけた。 確かにいつ何があっても言い続けていれば、後に゛愛”に関しての未練が和らぐと思える。
 オリジナルへのオマージュも、もちろんある。 それは轆轤を回す場面やゴーストになった主人公が大切な相手,もう一人の主人公に意思を伝える場面もそう。 しかし、ラストカットはアジア版だけのオリジナル。 状況としてはハッピーエンドでないけれど、その場面を見るとハッピーエンドに思えるのだ。
 話はそれるが、運天のジュノ宅への訪問シーンについて。 ここは色んな意味で印象深い。 物語の鍵となる運天。 七海の思いをジュノに伝える重要な役割を持つ人。 七海の声だけが聞こえ、ゴーストを憑依させることも出来る(この点においては、この後者の能力のわかる場面がちょっと衝撃的)。 七海の憑依した場面でのジュノの゛2ショット”はやはり見せ方がうまい。 当然と言えば,当然かもしれないが。
 また、ジュノ宅の外側を写した場面ではお向かいさんと運天との短い会話のやりとりがあるのだが、キャスティング的に観ると意味のある場面に思える。 フジカラーに観れる,樹木さんのキャラクターがもろに活かされている。
 物語全体、主人公二人がする行動一つ一つが憧れる。 ゴーストになった七海の行動と,七海への思いが少しもぶれないなど、彼らの互いへの愛の深さが観られるからだ。 「結婚しよう」と言ってすぐにバイクを走らせ、誰もいない教会で式をあげるというのが凄い。 牧師をジュノがハングルで演じるのが面白い。 そして、指輪交換で二人がその場で用意した指輪は、どんな高価な指輪より,愛の絆を感じる温かなものである。 
 オリジナルとリメイク。 決してオリジナルのコピーではなく、それどころかリメイクとは感じさせない完成度である。 男女逆転となるオリジナルとの違い。 オリジナルを真面目に観ていない自分が言うのは可笑しな話だが、個人的にはアジア版が好き。 西洋ではないところがまたいい。 それに残されたのが男性であり、大切な人を思い続けるのが心温まる。 

*満足度:★★★★★(満点)

▼作品情報▼
『ゴースト ~もう一度だきしめたい~』
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by jd69sparrow | 2010-12-25 20:22 | 映画タイトル か行