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ザ・マジックアワー

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<イントロダクション>
 映画の冒頭で語られるように“マジックアワー”とは、日が沈み,わずかの間しか見ることのできない一日のうちで最も美しいと言われる空が現れる時間を指す。 青や紫、ピンクといった色がまるで水彩画のように柔らかくて、空という無限に広がるキャンパスに色を重ねたようだ。 “自然”の芸術…。 幻想的で綺麗なその空は毎日見えるものではだろう。 日中が青空でなくてはならないのが大前提だが,それにしてもタイミングよく見れるというのは頻繁なわけではなく,ふとした瞬間 空を見上げたらそこにあるという感じ。 だから、“マジックアワー”を味わえたときというのは心癒されるというか運がいいと思う。
 なぜ、この映画の題名がついたのかと考えてみた。 それは主人公が人生初めて身を持って“マジックアワー”を味わったということなのだろう。 役者として大きな志を持ち,いつか自分の功績を自身で目にすることを夢みる無名な役者がいる。 そんな主人公が今まで歩んできた役者人生になかった夢のような“時(世界)”の中に自分がいて、それが確信へと変わる…。 こう分析してみると作品全体の雰囲気からは見えにくいかもしれないが深い。

<あらすじ> 
 守加護の街はどこか映画の世界を感じさせる不思議な場所。 街のギャングのボスの“相手”・マリに手を出してしまったクラブのオーナーである備後は助かるために,とっさにデラ富樫という殺し屋をボスに会わせるという約束をする。
 しかし 備後はデラ富樫を知らない。 そこで無名で殺し屋っぽく見える役者にデラを演じさせることで、逃げ道を確保しようと考える。 備後が呼んだのは熱血的精神を持つ役者・村田大樹。 ギャング(殺し屋)役で映画に主演できると聞き,心躍る村田はパワー全開で,嬉々としてデラを演じる。 それは、備後の思惑とは違う方向へと進んでいった。

<コメント>
 個人的に二人の人間がそれぞれ全く違う内容の話をしているのに二人の話がかみあっている状況を“アンジャッシュ”と考えている。 それはお笑いコンビ・アンジャッシュのやるコントにそういうネタがあるからだ。 現実にもあることだし、『ザ・マジックアワー』の中にもある。 そこが魅力の一つ。
 やる気満々でデラになりきる村田、それをきょとんと見つめるギャングたち。 映画の撮影にのめりこむ村田…村田自身もギャングたちも互いのことを気づかないし,村田のはりきりが意外な方向へと転がっていく。オーバーにも見える村田の行動一つ一つがギャング側と備後側とでは見え方が違う。 役者とギャングという全く世界の違う部類の者どうしの会話が“アンジャッシュ”なのが、コメディ度を上げているようにも思う。 そして、すっかり映画の撮影だと思い込んでいて、こだわりを持った熱い演技を見せ付ける村田のペースにギャングたちが乗せられているのがおもしろい。
 さらに、自分と愛するマリのために、村田を映画の撮影だと騙していて,ボスの目さえも欺こうという備後だったが,やはり限界はある。 ボスには“ビジネス”、村田には映画の撮影…その二つが少々ごっちゃになってしまい,それがまた笑いを誘う。
 とっても贅沢だと思うのが,メインキャストからカメオ出演的に作品に顔を出す人たちに至るまで,そうそうたるメンバーばかりで、中にはかかさず三谷作品へ出演をしている常連もいる。 一瞬とかほんの数分程度の出演時間なのによくぞ ここまで揃ったなというくらいすごい。 そして、さりげなく(三谷作品の)過去の作品を思い返させてくれたりもするのが嬉しい。
 この作品に限ったことではないけど、カメラには映らない場所へも決して手を抜かないとか,とにかく監督のこだわりがぎっしりという感じ。 いろんな人たちが出ていてカメラの内外に映る問わず,そこにあるものに細かな施しがなされていて,一度では隅々まで見るのは難しいだろう。 これだけの人たちが集まるのは監督が成し遂げてきた成果があるからなのだろう。 しかも、三谷監督のもとに今回集められた人たちは新境地を踏み出すこととなる(※パンフレット参照)。 だからこそ,おもしろい。
 今までの(それぞれの)役者さんのイメージを見ても驚きがあって良いし、まっさらな気持ちで見てもまたおもしろい。 映画の中で映画をとる…ライブ感あふれるノリの良いストーリーとキャラクターたち。 でも、コメディー一食ではなく,伝えることは伝えているのがいい。
 笑いに笑って、豪華に彩られた作品をじっくり味わう、そんな中に心温まるものがあるエンターテインメントである。

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by jd69sparrow | 2008-07-08 23:53 | 映画タイトル さ行