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カールじいさんの空飛ぶ家

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<イントロダクション>
 動物達など人間以外のキャラクターが主役が多いピクサー作品の中で稀である『カールじいさんの空飛ぶ家』。 おじいさんが主役という新たな試みである。 頑固なおじいさんだけれど、憎めなくて可愛らしい、だからピクサーの可愛い,愛らしい主人公たちの定義が守られているわけだ。 家に引きこもりのおじいさんが、とてもおしゃべりな少年と旅に出るという,いまだかつてないストーリー設定に、“空飛ぶ家”という,その言葉だけで人に夢を与えるような、ほのぼのとしていて温かい話なのだと伝わってくる。
 色とりどりの風船の力で空を飛ぶカールとエリーの夢と希望、努力の結晶の“家”。 少年カールが今に至るまで妻エリーとともに大事してきた家には温もりと魂とが宿る。 そして空飛ぶ家は今は亡き,エリーが家を通して大切な事を教えてくれているのではないだろうか。 カールに新たな夢と未来を与え、そしてさらに視聴者へ同じ贈り物をしてくれる,毛布のようにぽかぽかした作品である。

<あらすじ>
 希望に満ちた冒険に憧れる少年がいた。 少年の名はカール。 カールは映画館の帰り道でとある家の前で足をとめる。 中から何かが聞こえるのだ。 恐る恐る中へ入ると男の子のような格好をした女の子がいた。エリーである。 大人しくてシャイなカールとは正反対で、とても明るく活発なエリーには共通で好きなものがあった。 空を飛んで冒険する事。 やがて二人は成長とともに付き合い始め、一つ屋根の下で暮らすようになる。 そう、初めて会った場所で。 とても幸せな日々を過ごす二人の夢はいつか家を飛行機のように飛ばして、夢の地へ行く事だった。 しかし、その夢も実現できぬまま年を重ねてしまう。 人生の後半に入った頃、悲劇が二人を襲う。 エリーは病気に倒れ、間もなくして天国へと旅立った。 一人取り残されたカールはエリーを思い続けながら、頑固なじいさんになった。 
 街の開発が進み、カールとエリーの家は孤立している。 老人ホームへ行く事も思い出の詰まった家を離れる事も頑なに断るカールじいさん。 その状況から脱するべく、あることを思い出す。 エリーと叶えようと誓った夢だった。 それを今、実現することを思い立った,カールじいさんは家を改造して翼をつけた。 そして、計画は実行に移され、空を飛ぶ。 夢の地へと冒険に出るカールじいさん、なんとそこには意外な珍客が紛れ込んでいた。 カッセル少年だ。 どうしてもお年寄りを助けたいとせがんできた少年はあきらめずに付いてきたのだった。 そして二人の冒険は数々の障害を乗り越えながら進んでいく。

<感想>
 心から望む夢というのは中々実現が難しい。 その障害は様々だけど、でも実現しようと努力する事じだいが楽しくもある。 風のように流れていく、時の中でカールとエリーの夢の実現への道のりが描かれ、それは春風のように暖かく優しい。 少年のようだった、エリーが清楚な女性に成長するところもまた印象的だ。 悲しい事にエリーが生きている間には実現できないけれど、人生の終盤にかかったときにその夢をあきらめずに実現させることのできたカールじいさんはすごい。 いつ叶うかはわからないけれど、あきらめなければ,また大事な人を強く思えば夢は実現できるのだと語っている。 若いときに冒険するのとはまた、別の世界がきっと広がっているのだろう。 それはその時にしかわからない。 でも、再び希望を取り戻したときのカールじいさんは頑固で意地っ張りな印象から,夢に満ちたカール少年に戻ったかのよう。 表情を取り戻し、笑顔まで戻ってきた。 その姿は年よりもはるかに若く見える。
 カールじいさんにとって、ラッセルはとても厄介に思えたけれど、彼が後に語るように,本当に,エリーが施してくれたのかもしれない。 孤独なカールを解放するために。 カールじいさんをラッセルがぐいぐいと導いているというふうにも見えた。 
 二人の冒険の前に立ちはだかる障害。 そのきっかけとなったのがある犬との出会い。 人間の言葉を話すその犬の名はダグ。 好奇心旺盛な犬そのもので人懐っこい。 カールじいさんが憧れていた冒険かチャールズ・マンツの飼い犬の一匹。 マンツはその昔、空へ旅立ったきり行方不明になっていた。 そのマンツは今も怪鳥を捕まえる夢をあきらめず、まず空の上にいたのである。 だけど、彼の夢は欲へと変わり,いつしかその欲に取りつかれたマンツは悪魔も同然となっていたようである。 その飼い犬たちはみな、翻訳機能の付いた機械を首輪につけられて、マンツの欲望の赴くままに飼い慣らされていた。 その犬たちの一員であるダグだが、彼だけは他の犬たちと違った。 主に命を実行しようとはするけれど、本当に心の温かい人間をかぎわける力を持つ,利口な一面がある。 カールになんとか認められようと,ないしは助けようとする様子はとても愛らしい。 犬が人の言葉を話したら…というのは多くの人が一度は考えた事だろう。 犬と会話できれば、孤独をまぎらわすこともできれば、楽しい生活もできれば、小さい子どもにとっては良き遊び相手となることだろう。 また、犬自身も言いたい事が言える。機械的ではなく、人と同じように犬が話せたらいいのにな…なんて思う。
 ラッセルが怪鳥のケヴィンを守るように、カールじいさんも自分の夢を追いかけるだけだったのが,冒険を重ねるうちにラッセルという大切な冒険仲間を思うようになる。 家に固執する事さえも忘れ、ただ一直線に冒険とラッセルとの絆を深める事を大事にする。 この変化が見所の一つと言えよう。 
 後半だっただろうか。 実はラッセル自身も孤独を味わっていたことがわかる。 父親に中々会ってもらえないという寂しさを抱えていたのだった。 旅の末、もうカールじいさんとラッセルは他人ではなく、家族同然だった。 私には本物の家族のように見えた。 壮大な旅の終わりにカールはエリーを思い、また,新しい幸せの一歩も踏み出す。 こんな光景がとても感動的だ。 表彰の場で、ラッセルの後ろに立つ,カールじいさんはラッセルの父親のようだった。 エリーとの子どもを持つ事の無かったカールにとってラッセルは実の息子に思えたのではないだろうか。 そう思うとまた心が温まる。 カールじいさんにラッセル、ダグの二人と一匹のその後の思い出の一つ一つがとても綺麗に映し出されていた…

by jd69sparrow | 2009-12-11 02:06 | 映画タイトル か行